魚を食べる際に心配な「寄生虫」。特にアニサキスによる食中毒の話はよく耳にしますが…嘔吐や激痛などの辛い症状を聞いたり、寄生虫に自分の胃を食いちぎられる様子を想像したりすると、死には至らないとは言え恐ろしくてもう…。
ちなみに私の釣り歴は30年以上で、自分で釣った魚も持ち帰って食べ続けてきましたが、人一倍臆病で神経質な性格もあってか、今まで一度も魚の寄生虫による食中毒をおこしたことはありません。
まあ、食べても問題ない寄生虫を知らぬうちに食べていたことはあるかもしれませんが…。
とにかく、魚を調理する際は寄生虫の種類や害の有無などをしっかり把握した上で適切に処理したいですよね。
そこでここでは魚の寄生虫による食中毒を防ぐため、私の釣り師としての経験、公的機関が発信する情報、ニュースや各種研究結果等を基に、魚につく寄生虫の種類を整理し、その症状や治療方法・予防方法などの対策を個別に解説します。
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魚の寄生虫の種類一覧
魚の寄生虫にどのようなものがいるのか一覧にして以下に整理しました。
名称 | 大きさ | 寄生される魚 | 人体への害 |
アニサキス | ~3cm | アジ、イワシ、サンマ、カツオ、イカ等 | 有害 |
シュードテラノーバ | ~4cm | アンコウ、タラ、ホッケ、イカ等 | 有害 |
クドア | ~0.01mm | ヒラメ等 | 有害 |
サナダムシ(日本海裂頭条虫) | ~3cm | サケ、マス等 | 有害 |
ニベリニア | ~5mm | タラ、イカ等 | 無害 |
テンタクラリア | ~1cm | アジ、サバ、カツオ等 | 無害 |
ブリ糸状虫 | ~50cm | ブリ、カンパチ等 | 無害 |
ディディモゾイド | ~5cm | マダイ、サバ、カツオ等 | 無害 |
サンマヒジキムシ | ~7cm | サンマ | 無害 |
ミクソボルス | ~0.01mm | ボラ | 無害 |
サケジラミ | ~1cm | サケ | 無害 |
フィロメトラ | ~2cm | イサキ、カサゴ、スズキ、マゴチ等 | 無害 |
タイノエ | ~5cm | マダイ等 | 無害 |
主要な寄生虫はほぼ網羅したつもりですが、この中で人体に有害な寄生虫は「アニサキス」「シュードテラノーバ」「クドア」「サナダムシ」の4種。残りの9種は無害です。
食中毒を引き起こす寄生虫4種
ここで魚の寄生虫で食中毒を引き起こす可能性がある上記の有害な寄生虫4種について、詳しく見ていきます。
アニサキス
出典:目黒区
アニサキスは全長数cmの長細い半透明な回虫の一種。アジ、サバ、サンマ、カツオ、イワシ、サケ、イカなどに寄生しています。
一時期ニュースやSNSでも話題になりましたが、アニサキスの食中毒は近年急増しており、特に刺身で食べる際に一番気を付けなければならない寄生虫です。
アニサキスによる食中毒の症状
出典:厚生労働省
アニサキスによる食中毒の症状は激しい腹痛、嘔吐、下痢、稀にじんましん。食後8時間以内に発症することが多く、4~5日で治まるようです。
食べると100%発症するわけではなくそのまま排便されるケースが多いらしいのですが、食べたアニサキスが稀に胃や腸壁にとどまりグリグリと食いちぎることがあるらしく…そりゃ痛いですよね。
アニサキスによる食中毒の治療方法
出典:fishing wolf
アニサキスによる食中毒の治療方法は以下の4つ。
- 開腹手術による摘出
- 内視鏡による摘出
- 正露丸を飲む
- アニサキスの死滅を待つ
「開腹手術」と「内視鏡」…ここまで大がかりな治療は避けたいですよね…。私は以前、喉の奥に刺さった魚の骨を内視鏡付のピンセットで抜いてもらったことがあるんですが、それでも数万円かかったので、きっとそれ以上の出費になるでしょう…。痛くて我慢できないなら病院に相談した方がよいかもしれませんが。
そこで3点目の「正露丸」に注目です。大幸薬品の正露丸は、アニサキスの活動を抑制する効果で特許を取得しているらしいですよ。
あとはアニサキスの死滅を待つ他ありません。胃の中であればアニサキスは4~5日程度しか生きられないと言われていますので、正露丸を飲みながら辛抱して待つことが最もお手軽でお金のかからない治療法でしょう。
アニサキスによる食中毒の予防方法
アニサキスによる食中毒の予防方法は以下の4つです。
- 60℃以上で1分以上加熱する(70℃以上なら瞬時に除去可)
- -20℃以下で24時間冷凍する
- 目視で発見し取り除く
- 切断する
これによると、火を通す「焼魚」「煮魚」「揚げ物」では、特別気を付けなくても自然とアニサキスを死滅させることが分かります。注意が必要なのは刺身のみですね。
刺身にする場合、「冷凍する」「取り除く」「切断する」の3つの予防策があります。
まず「冷凍する」場合の注意点として、家庭用冷蔵庫の冷却温度を確認する必要があります。家庭用冷蔵庫の冷凍室の温度はJIS規格で-18℃以下と定められており、ECOと消費電力の観点からこれ以上下がらない冷蔵庫が多いです。
ちなみに-18℃より強力な機能を持つ市販の冷蔵庫を調べてみたところ、2020年4月現在では売上上位のシャープSJ-W411Fは、冷凍室の温度を「強」に設定することで-23℃まで冷凍室内の温度を下げられるようです。(メーカーに問い合わせ確認済み)。
他にも保冷温度をより低く調節できる冷蔵庫はあるはずですので確認してみるといいと思います。
それでも不安な場合は、より保冷温度の低い業務用冷凍庫で冷却されたもの、要はスーパーで刺身用に冷凍(解凍)されたものを食べましょう。
また、刺身は冷凍するとどうしても味が落ちるため、本当に旨い刺身を食べるためには冷凍せず「取り除く」「切断する」のどちらかで処理する必要があります。
そこで次に、目視で「取り除く」という方法ですが、アニサキスは全長数cmと小さい上に半透明でなかなか見つけづらいです。その対策として、ブラックライトを当てて発光させるという方法があります。
シュードテラノーバ
出典:http://www.cty-net.ne.jp/~noro-m/page053.html
シュードテラノーバはアニサキスの仲間で、これもやはり食中毒を引き起こす原因になり得ます。見た目もアニサキスに似ていますが、茶褐色で、アニサキスより一回り太くて長いのが特徴です。アニサキスと違い渦巻き状にはならないようです。アンコウ、ホッケ、タラ、などにつく寄生虫です。
シュードテラノーバによる食中毒の症状
https://medakan.exblog.jp/amp/27804185/
シュードテラノーバの食中毒の症状は、腹痛、嘔吐、下痢、稀にじんましん。アニサキスと同じですね。
シュードテラノーバによる食中毒の治療方法
シュードテラノーバの食中毒の治療方法もやはりアニサキスと同様で、手術で取り除くか、大幸薬品の正露丸で動きを抑制しつつ4~5日耐えて凌ぐかのどちらかです。
シュードテラノーバはタラやアンコウなどあまり生食しない魚に多く見られるため、症例数もアニサキスに比べると少ないようですね。
シュードテラノーバによる食中毒の予防方法
シュードテラノーバによる食中毒の予防方法もアニサキスと同様で、「60℃以上1分以上の加熱」「-20℃以下24時間以上の冷凍」「取り除く」「切り刻む」のいずれかです。
ただ「取り除く」についてはアニサキスより大きく色も付いているので処理しやすいですね。
また「切り刻む」について、シュードテラノーバの場合は生でタタいて食べる魚への寄生が少ないのであまり使えませんかね。
クドア
クドアは、正式名をクドア・セプテンプンクタータといい、主にヒラメに寄生します。肉眼で見えないところが厄介。
クドアによる食中毒の症状
クドアによる食中毒の症状は、嘔吐、下痢で、食後数時間後に発症し、軽症で済むと言われています。
また、症状は一過性のもので24時間以内には回復すると言われています。
クドアによる食中毒の予防方法
クドアによる食中毒の予防方法は2つ。
- 75℃以上5分以上の加熱
- -20℃以下4時間以上の冷凍
クドアはアニサキス等と違い肉眼では見えないため、熱処理により予防する他ありません。
中まで火を通し加熱すれば問題ないので、やはりこちらも注意が必要なのは刺身にする時です。
まず、もっとも安全なのは、スーパーなどで刺身用として販売されているヒラメを食べること。
ただ、スーパーの刺身用ヒラメはまず間違いなく解凍もの。冷凍により殺菌するためです。そうなると、やはり味が落ちてしまい、真のヒラメの旨さを味わうことができません。
ここで一つ朗報?なのですが、どうやらクドアによる食中毒は、特に養殖物に多いとのことで、自分で釣り上げた天然物はリスクが低そうです。
民宿や居酒屋などで天然ヒラメの刺身を出すところも数多くありますし、せっかく自分で釣り上げた天然のヒラメなら、あの旨さと天秤にかけて、…私なら食べちゃいますかね。
※天然ヒラメの生食による食中毒の安全を保証することはできないので、あくまで自己責任でお願いします。
サナダムシ(日本海裂頭条虫)
サナダムシには様々な種類があるのですが、その一種にサケやマスにつくこの日本海裂頭条虫がいます。幼虫はプレロセルコイドと言われるようですが、ここではそれも含めサナダムシと呼んでおきます。
幼虫時は2~3cmほどですが、人に寄生し成虫になるとなんと10mほどまで成長するといわれます。
サナダムシによる食中毒の症状
出典:http://salmon-garage.com/entry/2019-11-11/
サナダムシによる食中毒の症状は腹痛、下痢で、軽症で終わることがほとんどのようです。
ただ、小腸のなかで10mほどの長さになるまでもりもり成長し肛門からピヨッと顔を出すことがあるようで、この時の精神的ダメージには計り知れないものがあります。
また、サナダムシは10週前後で成虫まで成長するようで、栄養を吸収されるため体重が落ちたりすることもあるようです。
サナダムシには様々な種類がいるらしく、日本海裂頭条虫でない場合、その他の重篤な症状が発生することも考えられるので、早めに病院で見てもらった方が無難でしょう。
サナダムシによる食中毒の予防方法
サナダムシによる食中毒の予防方法はやはり以下な熱処理です。
- 60℃以上1分以上の加熱
- -18℃以下で48時間以上冷凍
なお、スーパーの刺身用サケは他の魚と同じように冷凍処理されていますが、自分で釣った天然のサケやマスは自分で処理する必要があるので特に注意が必要です。-18℃であれば一般の家庭用冷蔵庫の冷凍室で対応可能ですが、冷凍庫に入れてから魚自体が-18℃になるのには時間がかかるはずですので、長めに冷却することをオススメします。
サナダムシによる食中毒の治療方法
サナダムシによる食中毒は駆除薬を服用することで治療することができるようです。長期で体内に居座られるのも気持ち悪いですし、とにかく早めに病院にいった方がよさそうですね。
食中毒を起こさない寄生虫
次に食中毒を起こさない寄生虫9種についても紹介しておきます。
ニベリニア
ニベリニアは、タラ類の魚やイカなどに付く寄生虫です。食べても人体に害はないようです。
ニベリニアを除去したければ、アニサキスと同じように加熱か冷凍することで息の根を止めることはできます。
スーパーのタラコに「ウジ虫がついてる!」と苦情の原因になったりするらしいですね。割りと頻繁に付いているらしいので気になる方はタラコは食べない方が無難です。まあ食べてもたんぱく質として吸収されるだけみたいですよ。
ワカサギなんかはウジ虫(サシ虫)をエサにして釣ったりしますが、そのまま内臓ごと唐揚げにして食べますよね?それを考えたらかわいいもんだと思いますが…。
※ちなみにワカサギの餌で使われるサシ虫は清潔な場所で育てられているので、害のあるものではありません。
テンタクラリア
テンタクラリアはニベリニアに似ているウジ虫っぽい見た目の寄生虫。
内臓付近の筋肉に寄生するらしく、カツオなどのお腹を開くと上の写真のような白い点々があるのを見たことありませんか?これを掘り起こすと
こんな感じです。食べても無害とは言え、気持ち悪いですね。掘り起こさず熱処理で除去したほうが精神衛生的にもよいかもしれません。テンタクラリアは熱処理すると半透明になり見えにくくなりますので。
ブリ糸状虫
ブリ糸状虫は文字通りブリ類のハラミ付近に寄生する寄生虫です。全長50cmになるものもあります。
体の色はもともと赤い訳でなく、魚の血を吸って赤くなるものだと言われています。こんな赤くて長い虫が出てきたらさすがにビックリしますよね。見なかったふりもできそうにありません。
私は毎年秋になるとブリ系の魚を大量に釣って帰ってきますが、まだ実物を見たことはありません。人には無害で食べてもなんの問題もないのですが、出てこないことを祈りたい…。
ディディモゾイド
https://buna.info/article/1861/
ディディモゾイドはマダイやサバ、カツオなどにつく黄色い寄生虫。
これは私の釣ったマダイにも寄生していました。その時は身がやけに黄色く変色してるなー…などと思いながら、あまり深く考えずそのまま焼いて食べましたけど…。
もともと人体には無害な寄生虫、しかも火を通したため全く問題なかったわけですが、こんなゴツい名前の寄生虫だったとは…。
サンマヒジキムシ
サンマヒジキムシはサンマに寄生する全長7cm程の黒い寄生虫。
魚の体に頭をずぼっと埋め込んで寄生するので、売り物の見た目が悪くなってしまいますが、味には影響なく、人体にも無害です。
ヒジキと聞くと「あぁ確かにヒジキに見えなくもないか」と思うのですがよく見ると…
…この風貌はヒジキの枠に収まらないでしょう…。
ちなみにこの顔、食べると固いらしいのでちゃんと除去した方が良さそうです。
ミクソボルス
出典:京都府ホームページ
ミクソボルスはボラの鱗に寄生する胞子虫類に属する寄生虫。
胞子というほどなので単体ではものすごく小さいんですが、このミクソボルスが作る「シスト」いう膜が、上の写真のボラの鱗に付いたボツボツです。
食べても人体に害はないらしいのですが、まず、さばくときに鱗は取りますので食べる人はいないでしょう…それ以前にこの魚体を見たら食べようという気は失せてしまいますね。気色悪さは最強クラスです。
サケジラミ
サケジラミはサケの尻ビレや頭部の皮につく寄生虫。全長1cm程の大きさがあるので見つけやすいですね。オタマジャクシみたいでかわいい…なんていう人ももしかしたらいるかも…。
かなりガッチリ噛み込むようなので、噛まれたサケは出血することもあるようですが、人体には影響ありません。
養殖場ではサケジラミ対策として過酸化水素を使ったりするようですが、入れすぎるとサケが死んでしまうので適切な濃度管理が必要みたいです。そう考えると養殖って大変ですよね。
フィロメトラ
フィロメトラはメバルやカサゴの卵巣に寄生する寄生虫。
上の写真はもずくのように見えますが、すべてフィロメトラ。多いと一匹の魚に100匹ほど寄生するというなんとも見た目の恐ろしい寄生虫ですね。
自分の精巣がこんな風に寄生されたら…鳥肌がおさまりません。でも大丈夫…人には寄生しないし無害です。
タイノエ
出典:Instagram
タイノエは主に鯛類の口の中に寄生する寄生虫。全長5cmですが幅も厚みもあり、他の寄生虫と一線を画した迫力があります。
私が初めてこれを目の当たりにしたときは、もう私の口からも何か飛び出そうなほどの衝撃でした。
人体には無害で、食べたらシャコみたいな味がしたなんてこともきいたことがあるのですが、その勇気に脱帽です(笑)。
魚につく寄生虫まとめ
以上、魚の寄生虫について人に被害のある4種類、無害の9種類に分けて、食中毒の症状や治療方法、予防方法などの対策をご紹介しました。まとめると以下の通り。
- 有害な寄生虫は「アニサキス」「クドア」「シュードテラノーバ」「サナダムシ」の4種
- 上記4種以外の寄生虫は見かけは恐ろしいが人体には無害
- 寄生虫による食中毒は「75℃以上5分」または「-20℃以下24時間」の熱処理で概ね予防できる
- スーパーの「解凍」表示のある刺身用の魚は熱処理による寄生虫対策済み
- アニサキスはブラックライトを当てると除去しやすい
- アニサキスによる食中毒の症状緩和に正露丸が効く
これら寄生虫による食中毒の知識をおさえて自信を持って調理し、気持ちよく魚を食べていただきたいなと思います。
また、本来なら刺身は冷凍せずに生のままが最高に旨いのですが、寄生虫による食中毒のリスクが高いため、基本的にスーパーでは刺身用は解凍ものしか並ばないんですよね。
今後、画期的な寄生虫の処理方法が開発されれば、より美味しい刺身を気軽に食べられる日が来るかもしれません。
以上、参考になれば幸いです。