皆さんは魚の熟成方法をご存知でしょうか。
魚は釣りたてが一番美味しいと思われがちですが、旨味を引き出した熟成魚の味は更に格別。「本当に旨い魚」を堪能したい方は、魚の熟成に是非とも挑戦していただきたいところです。
ただ、魚の熟成は手間が掛かり、素人には少し敷居が高いイメージがあります。
そこで今回は、魚の熟成とは何かを整理し、一般の方でも手軽においしく仕上がる魚の熟成方法を解説したいと思います。
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魚の「熟成」とは
魚の熟成とは、時間をかけて魚の旨味成分を引き出すことを言います。具体的には「魚の熟成の仕組み」「魚の熟成期間」に分けて以下で説明します。
魚の熟成の仕組み
魚の熟成は、魚の死後、筋肉を動かすエネルギー源であるATPがイノシン酸に変化すること、またタンパク質が遊離アミノ酸類に変化することにより起こります。
この仕組みについて具体的には以下の文献が参考になります。
これによると、熟成の過程は、主な旨味成分であるイノシン酸と遊離アミノ酸類が以下のように働く4つの状態に分類できるようです。
(1)イノシン酸の旨味が優位に働いた熟成状態。(2)イノシン酸の旨味が働きつつも食感の変化により食材の状態が変化している熟成状態。(3)イノシン酸と遊離アミノ酸類の複合により旨味が複雑化している状態(4)遊離アミノ酸が味覚に優位に働いている状態。この4つです。
このような仕組みで旨味成分が変化することで魚が熟成されていきます。
魚の熟成期間
魚の熟成期間は、短期では半日から、長期では1年以上というものまで様々です。
こちらはルアマガ+さんでは「短期熟成」「中期熟成」「長期熟成」の3つに分類していました。まとめると以下の通りです。
分類 | 熟成期間 | 作用する旨味成分 |
短期熟成 | 半日〜5日 | イノシン酸 |
中期熟成 | 6日〜14日 | イノシン酸、遊離アミノ酸類 |
長期熟成 | 2週間以上 | 遊離アミノ酸類 |
※上表は右にスクロールできます。
中期熟成は、複数の旨味成分の複合により味にも深みが生まれそうですが、これを成功させるためには、遊離アミノ酸類が生じるまで、いかにしてイノシン酸の減少を遅らせることができるかが鍵になると思われます。その魚の鮮度を保つ画期的な方法として「津本式 究極の血抜き」が近年話題となりました。血や神経がキレイに抜けていく視覚的なインパクトも印象的です。
「魚は新鮮な程美味しい」、「すぐに痛んでしまう」、「家庭で美味しい魚は食べられない」そんな風に思っていませんか? 魚は「…
また長期熟成といえば、福井県の伝統料理「へしこ」は、塩漬けした後ぬかに漬け、1年〜2年の長期に渡り本漬けする本格的な熟成魚で、アミノ酸は通常の約2.5倍に増加すると言われます。
熟成は腐敗する過程でもあるので、熟成期間が長いほど専門的な知識と技術・経験が求められそうですね。
熟成すると美味しい魚
熟成すると美味しい魚についてリサーチしてみます。魚別に巷の口コミ・評価を以下にまとめてみました。
アジの熟成
アジは腐敗が早いため長期の熟成には向かないと言われますが、美味しく熟成出来たという情報も散見されました。
3日目あたりだと鮮度の良い美味しさを楽しむことができた。もうまさしくアジっていう直球ど真ん中の味わいで、一切の臭みも無くアジの香りと旨味を存分に味わうことができる。
5日目になるとやや甘みも乗ってくる。食感が3日目よりも落ち着いているので酢飯との相性も良さそう。寝かせたアジの美味しさを味わってみたいなら5日目がオススメ。
締めて血抜きをしたアジであれば、3日〜5日の短期熟成が臭みもなく美味しく食べられるようです。
その他の方からも、一週間以上寝かせた鯵が最高!と聞いたこともありますし、熟成魚の選択肢から外してしまうのは勿体ないかなと思います。
ただ一方で、アジは熟成しなくても十分に美味しい魚で、個人的には釣った日の翌日くらいが一番気持ち良く食べられるかな…とも思います。
ブリの熟成
ブリはもともと脂肪酸からくる旨味が多く、素のままでも十分に美味しいのですが、熟成するとまた一段と美味しくなるようです。
ブリを熟成して食べ比べてみた方の記事によると以下のようにあります。
- 獲れて3日目 イノシン酸の旨味最高潮
- 獲れて5日目 違うタイプの旨味が出てきて、円熟した味わい
- 獲れて6日目 臭みが出て刺身では美味しくない
このように一般の方でも、5日までの短期熟成であれば美味しく仕上げることができているようです。
また一方で、○ヶ月熟成などの長期熟成ものを寿司屋で見かけます。とろけるような味わいと評判ですが、長期熟成を成功させるにはやはりプロの技術が必要と見受けられました。
マダイの熟成
白身魚の代表格、マダイを熟成でも、美味しく食べられたとの報告が多数見受けられました。例えば以下の記事。
釣った4時間後に鯛を捌き、熟成時間は80時間…
有名なすし屋のネタで出てきてもおかしくないレベルの味!いや、むしろそれ以上に美味しい!
「津本式」でしっかり血抜き・熟成を行った結果だと思いますが、寿司屋超えの味が出たと羨ましい報告。
なお、マダイに関わらずですが、3日目〜5日が旨味のピークがきて、それを超えると更に美味しくなる方と臭みが増す方に分かれるようです。
やはり中〜長期の熟成となると、血抜き等の下処理だけでなくその後の温度・湿度管理等がかなりシビアになってくるように思われます。
ヒラメの熟成
白身の高級魚ヒラメは元々脂が少ない淡白な魚で、熟成の効果をはっきりと感じることができることもあり、個人的には最も熟成しがいのある魚だと思っています。
釣りたてのヒラメは、味はさっぱり、食感はプリプリという印象ですが、熟成すると旨味だけでなく食感にも変化が生じ、もっちりして深みのある味わいになります。
4日寝かせたヒラメの刺し身は絶品でした。はじめて食べたときの衝撃は以下の記事でも紹介しています。
「あなたが一番おいしいと思う魚は?」そう聞かれて即答できないのは私だけだろうか。もっとも、「美味しい」の定義は人それぞれ。その回答は三者三様になろう。しかし、釣り歴30年を語る釣り好き親父としては、やはり自分がうまい[…]
熟成の難易度を魚別に整理
熟成により色々な魚が美味しくなることは分かりましたが、次は各魚の熟成の難易度について考えてみます。
熟成に向かない魚として一般的にはサバ・サワラなどの青物が例に挙げられますが、その理由は食中毒を起こしやすいからというもの。そこで魚の食中毒の主な原因を調べてみると、市区町村保健局のサイト等によると以下の3点が挙げられています。
- 腸炎ビブリオ
- ヒスタミン食中毒
- アニサキス症
このうち、青物に多いとされるヒスタミン食中毒について少し掘り下げてみます。このヒスタミンの元となるヒスチジンの含有量を魚別に調べてみると以下のようなデータがありました。
これによると、意外にもサバやサワラよりブリやマグロの方がヒスチジン含有量が多い、つまりヒスタミン食中毒を起こす潜在性は高そうです。
次に注目したいのがアニサキス症。その原因となるアニサキスの寄生率を魚別に調べてみると以下の通りでした。
魚種 | アニサキス寄生率 |
カツオ | 約80% |
サバ | 約80% |
サワラ | 約30% |
ヒラメ | 約25% |
マダイ | 約20% |
マアジ | 約15% |
こちらも、東京都福祉保健局の調査結果等を参考にさせていただきました。産地や季節その他により状況は変わると思いますが、大体の傾向は掴めるはずです。サバとカツオの寄生率は突出していますね…。
なお、アニサキス等、魚の寄生虫については以下の記事も参考にしてみてください。
魚を食べる際に心配な「寄生虫」。特にアニサキスによる食中毒の話はよく耳にしますが…嘔吐や激痛などの辛い症状を聞いたり、寄生虫に自分の胃を食いちぎられる様子を想像したりすると、死には至らないとは言え恐ろしくてもう…。ちなみに私の釣り歴[…]
以上の、食中毒の原因の上位を占めるヒスタミン食中毒とアニサキス食中毒の状況を踏まえて、魚の熟成の難易度を以下のように整理しました。
熟成の難易度 | 魚種 |
高 | マグロ、カツオ、サバ |
中 | ブリ、サワラ、アジ |
低 | マダイ、ヒラメ、カワハギ、カサゴ |
マグロ、カツオ、サバは、素人が熟成するには向かない魚と言えそうです。
比較的難易度の低い魚はマダイやヒラメの他、ヒスタミンやアニサキスの表にリストアップされていないカワハギやカサゴなどが挙げられそうです。
手軽で美味しい魚の熟成方法
ではここで、私のような素人でも簡単に美味しく仕立てられる魚の熟成方法をご紹介します。
10の手間をかけて10の旨味を引き出すのではなく、3〜4の手間をかけて7〜8の旨味を引き出すイメージです。コスパよく美味しい熟成魚を仕立てていきましょう。
ここでは釣った魚で素人でも比較的簡単に実践可能な「短期熟成」を狙っていきます。
大まかな手順としては以下の通りです。
- 釣った魚を血抜きする。
- サクにおろす。
- サクをキッチンペーパーとラップで包む。
- 冷蔵庫に入れて数日寝かせる
以下で具体的に解説していきます。
釣った魚を血抜きする
まずは釣った魚を血抜きします。これは魚を熟成する工程で最も重要な作業です。
いくつか方法がありますが、ここでは簡潔に済ませるため、エラをハサミでバツっと切ってしまうだけで良いと思います。
なお、この後エラ蓋から指を通し、海水で頭をジャブジャブするとよりキレイに血が抜けますが、腸炎ビブリオのリスクがあると言われているため、水温が菌が繁殖する温度(20℃)を超える時期は私は控えています。
また、同時に脳天締め、神経締めを施すことで、更に鮮度を保つことが出来ますが、これはイノシン酸の増加速度を下げることにもなるため、短期熟成に留めるのであれば不要かと思っています。
魚をサクにおろす
次に魚をサクにおろします。写真はマツカワガレイの五枚おろし。
皮は剥がない方が、身が空気に触れることによる酸化を防げるため鮮度が保たれますが、皮にヌメリのある魚はこのように皮を剥いでおきましょう。
ここでサクに塩を振る方法と振らない方法があるのですが、塩を振る場合は後で水で洗った後、しっかりその水分を拭く…という手間が加わりますし、塩振りなしでも美味しく仕上がりますので、ここでは振らない方法をご紹介します。
サクをキッチンペーパー、ラップで包む
次にサクをキッチンペーパーで包み、その上から更にラップで包みます。
冷蔵庫に入れて数日寝かせる
あとはこれを冷蔵庫に入れて寝かせるだけです。
ただし、キッチンペーパーは毎日新しいものに取り替えてください。丸一日経つとキッチンペーパーはドリップを吸収して湿っているはずですが、それを放置すると臭みの原因になります。
短期熟成ということで熟成3日目からが食べ頃。5日目までには食べ切りましょう。
魚の熟成についてまとめ
以上、魚の熟成の仕組みや熟成で美味しくなる魚、熟成の魚別難易度などについて解説し、手軽にできる熟成方法を紹介しました。まとめると、
- 魚の熟成とは、イノシン酸や遊離アミノ酸類といった旨味成分を時間をかけて引き出していくこと。
- 魚の熟成は「短期熟成」「中期熟成」「長期熟成」に分類でき、初心者には短期熟成がおすすめ。
- ヒラメ、マダイ、カワハギ等の白身魚は熟成の難易度が低く初心者にもおすすめ。
- 魚の熟成方法は、血抜き→サクにおろす→キッチンペーパーとラップに包む→冷蔵庫で寝かせる の4工程。
以上です。釣った魚を美味しく調理できるようになるとこれからの釣りがもっと楽しくなるはずです。
なお、魚を捌くために欠かせない「包丁」については以下の記事で紹介しているのでご参考まで。
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この記事が皆さんのフィッシングライフの充実に繋がれば幸いです。