皆さんは「松川鰈(マツカワガレイ)」をご存知だろうか。
高級料亭や寿司屋で白身の最高峰として扱われる、知る人ぞ知る幻のカレイだ。
最近では養殖が進み、比較的簡単に手に入るようになったとも言われるが、毎週魚屋に通い詰める私も、これまでお目にかかったことは一度もなかった。
しかし先日、いつもの魚屋で、体を広げて売場面積を我が物顔で占領するヒラメ達の側に、2尾の異色の魚体を発見。値札には「松川カレイ」と赤い文字が!
しかもヒラメより安い。40cm弱と小ぶりなものの、破格の一尾750円。…陳列の様子といい、完全にヒラメのついでに釣れたオマケに成り下がっている。
ジーンズメイトでネルシャツを1枚選び抜くのに2時間考えあぐねた経験のある私も、これには瞬時に飛び付いた。
千載一遇のチャンスにゲットした初めてのマツカワガレイ、折角なので最高に美味しくいただきたい。
そこで今回は、人生初のマツカワガレイを堪能しながら、それを如何にしてより美味しく食べられるか研究してみることにした。
マツカワガレイは刺し身がうまい!
マツカワガレイの食べ方について調べてみると、刺身がうまいとの情報が多い。カレイと言えば煮付けや唐揚げが主流で、刺身と言うとピンとこない方が多いかもしれないが、一部のカレイは刺身で食べるとヒラメより美味いと言われる。マツカワガレイもその一種だ。
しかし本当にヒラメより美味いのだろうか?ヒラメといえば、私の中では高級魚クエをも超える白身の至宝。美味い魚ご勝手ランキング刺身部門で第3位にランクインしている。
「あなたが一番おいしいと思う魚は?」そう聞かれて即答できないのは私だけだろうか。もっとも、「美味しい」の定義は人それぞれ。その回答は三者三様になろう。しかし、釣り歴30年を語る釣り好き親父としては、やはり自分がうまい[…]
いやいや、とはいえマツカワも「幻の魚」とも称されるレアフィッシュだ。希少価値が高いということは需要超過な訳で、つまりは美味いに違いない。
そんな魚を幸運にも手に入れられたのだから、ここは最大の美味さを追求したい。ということで、今回は巷でうまいと噂の「刺身」で食べることにした。
マツカワガレイの下処理
マツカワガレイの刺身は、とにかく鮮度が大事と聞く。そのため下処理は入念に行いたい。
まずは釣った後の締め方と血抜きが重要だが、今回は購入時、ヒレの付根に切り込みが入っていたため、血抜きはしっかりされていると仮定し調理していく。
マツカワガレイのさばき方
マツカワガレイを刺身用にさばく場合、通常の魚と違い3枚でなく5枚におろす(サクが写真のように4枚取れる)。
ちなみに、この5枚おろしは難易度がかなり高い。鱗をスキ引きし、顔から尾びれへ縦に切り込みを入れて左右におろし、裏側も同じように処理するのだが、私が初めてヒラメを捌いた時は丸一枚駄目にしてしまった。自信がなければお店に頼んだほうが無難だろう。
マツカワガレイの熟成方法
サクにおろしたら「熟成」の準備を始める。マツカワガレイの刺身は、熟成させてこそ真価を発揮すると言われるので、惜しみなく手間をかけて味を引き出していきたい。
と言っても熟成方法はとても簡単。サクを一枚ずつ以下のようにキッチンペーパーで包み、ラップをして冷蔵庫で寝かせておくだけだ。
注意点は、一日置きにキッチンペーパーを取り替えること。そのままにしておくと、溜まったドリップが魚臭さを増幅させてしまう。
また、しっかり締めて血抜きをした魚でないと腐敗が進んでかえって味を落とすので注意が必要だ。基本的には自分で釣ってしっかり締め、血抜きした魚で行いたい。
魚の熟成については以下の記事で詳しく説明しているのでご参考まで。
皆さんは魚の熟成方法をご存知でしょうか。魚は釣りたてが一番美味しいと思われがちですが、旨味を引き出した熟成魚の味は更に格別。「本当に旨い魚」を堪能したい方は、魚の熟成に是非とも挑戦していただきたいところです。ただ、魚の熟成は[…]
マツカワガレイは熟成何日目がうまいか検証
さて、マツカワガレイの刺身を最も美味しく食べるには、何日「熟成」させるのがベストかなのだろうか。今回はそれを味比べで検証してみる。
1日目(解体当日)
まずは解体当日(一日目)のマツカワガレイの味は如何ほどだろう。
この日の夕飯は手巻き寿司。そのネタ皿に白身の最高峰マツカワガレイを盛ると、隣の本マグロやフィヨルドサーモンまで霞んで見える…のは正体を知る私だけで、子供たちはその得体の知れない白身をアジと同じ調子でホイホイ取っていく。
「もう少し拝みながら食べんか…」と言いたいところだが、そんなことを言ってしまうと逆に即売してしまいそうなのでやめた。
美味いものから消えていくそのガチの魚種格闘技戦の行方を気にしつつ、私もまずはマツカワを何もつけずに一切れ口に入れてみた。
…ん?…んん?
固っ。そして予想以上に全くもって味を感じない。
コリコリと歯応えがあるので噛む回数は増えるのだが、いくら咀嚼しても味が出てこない。2時間かみ続けたガム以上の無味。
なんだろう、舌の上でいくら転がしてもなんの応答もない、何もかもを拒まれているかのようなこの感覚…。魚というより貝類の食味に似ているかもしれない。
…わさび醤油を付けてみてもこれといった変化はなく、まずくはないが、正直美味くもない。これは残念ながら期待外れと言わざるを得ない。
その上、マツカワガレイは手巻き寿司のネタには向かないことも実感した。何せ身が固いため、一口目で具を全て引きずり出してしまい、二口目以降は、具なしの酢飯海苔巻きを食べることになる。
ちなみに、ネタ皿で繰り広げられたバトルの結果は以下の通り。
寿司ネタ | 消費量 |
フィヨルドサーモン | 100% |
マグロすき身 | 100% |
本マグロ | 90% |
マツカワガレイ | 70% |
アジ | 60% |
卵焼き | 60% |
沢庵 | 50% |
マツカワガレイは、卵焼きや大して新鮮でもないアジと同程度しか消費されなかった。我が家で元々大人気のマグロすき身やサーモンは比較対象にならないとしても、家族からの評価も今ひとつのようだ。
ということで、私としてはマツカワガレイの刺身をさばいたその日に食べる事はオススメしない。
3日目(熟成2日目)
さて、解体日から起算して三日目(冷蔵庫で丸2日熟成)のマツカワガレイの味はどうだろう。
前回と比較して白っぽさが抜けて見えるのは、背景の違いからだろうか。ここから同じように切って盛り付けてみる。
やはり初日と比較して透明感が増した気がする。そして気持ちしっとり感も増している。これをまた何もつけずに食べてみると
食感は…少し柔らかくなっているが歯応えはしっかり残っている。そして味については旨味が増しており、間違いなく一日目より美味い。
また、ネット検索でマツカワガレイの食べ頃について調べてみると、
マツカワガレイは死後48時間で旨味成分が最大になる
横浜丸魚株式会社
マツカワの旨味成分・イノシン酸は死後2日経つとほぼ2倍になる。
TV出た蔵
など、2日寝かせたタイミングが美味いとの情報が多くみられた。
やはりマツカワガレイの熟成は2日がベストという説は有力だろう。
5日目(熟成4日目)
では、解体日から起算して5日目(熟成4日間)のマツカワガレイの味はどうだろうか。
寝かせれば寝かせるほど旨味が増していく可能性をここで探りたい。
サクの状態では見た目に変化はあまり感じない。しかし…
切ってみると、少し赤みがかったように見える。鼻を近づけると、魚臭を微かに感じた。
こちらもまずは何もつけずに食べてみる。食感については、熟成2日目と同じく、歯応えの良さは残しつつ、柔らかさが気持ち増している。味については、旨味は2日目と大差ない。そしてやはりほんのり魚臭を感じた。
この魚臭は、魚の旨味が微生物の増殖により分解されできる「トリメチルアミン」という物質から発せられるらしい。
旨味が壊れて臭みに変わる…やはりマツカワガレイの旨味は2日目で頂点に達し、その後は徐々に臭みへと変わっているということか。
ただ、この臭み、醤油を付けて食べてみると全く嫌味のない風味に変化した。
なぜ刺身に醤油をつけるのか、その意味に初めて気付かされた。醤油は、単に塩味を加えるだけでなく、魚の匂いを良い香りの一部として包み込んでくれる。
私は2日目の刺身の方が好みだが、この仄かに臭みがある熟成4日目の刺身は、醤油を付けて食べることにより、ある意味2日目の刺身より芳醇と感じる人もいるかもしれない…とも思った。
マツカワガレイの美味しい食べ方まとめ
以上、マツカワガレイの美味しい食べ方について調べた。大まかにまとめると
- 刺し身で食べるべし
- 下処理(締め、血抜き、熟成)はしっかり行うべし
- 解体当日は身が硬くオススメできない
- 手巻き寿司のネタには向かない
- 熟成2日目が1番うまい
ということで、マツカワガレイを手に入れたら、はやる気持ちを抑え、丸2日寝かせた刺身を食べてほしい。
また、熟成2日目のマツカワガレイは確かに美味かったが、私の中ではヒラメを超えるほどではなかった。しかし、これが一尾1キロを超える脂の乗った個体ならまた話が違う気がする。
何れ良型のマツカワガレイを食べられる機会があれば、もう一度検証してみたい。
なお、カレイの種類については以下の記事でまとめているのでご参考まで。
釣りのターゲットやスーパーでお馴染みの「鰈(カレイ)」。その種類はなんと60種以上にのぼるらしく、お店でも様々な種類のカレイが売られているのを見かけますが、種類によって味や相場が違うので、値段を見てもお買い得かどうか判断が付かない…[…]